平田 京子
【書評】『松岡まどか、起業します』AIと共に働く未来を描く物語
2025年6月2日(月)

【書評】松岡まどか、起業します AIスタートアップ戦記|安野貴博 著

〜AIとの“付き合い方”を見つめ直す一冊〜

今、読んでよかったなと思える一冊でした

安野貴博さんの『松岡まどか、起業します AIスタートアップ戦記』を読みました。
率直に言って、「今このタイミングで読めてよかった」と思える本です。

生成AIが急速に広まる中で、私たちはその技術とどう向き合っていくべきか。
この本は、そのヒントをユニークな切り口で教えてくれます。


面白い!と思った理由は3つあります

  1. 作者が面白い
  2. 主人公・松岡まどかのAIとの向き合い方が魅力的
  3. スタートアップ経営のリアルが垣間見える

それぞれの理由について、もう少し詳しくご紹介します。

1️⃣ 作者・安野貴博さん自身が面白い人

まず、著者の安野さんのキャラがいい!
安野貴博(あんの たかひろ)氏は、1990年生まれのAIエンジニア、起業家、SF作家、政治活動家です。開成高校を卒業後、東京大学工学部システム創成学科に進学し、AI研究の第一人者である松尾豊教授の研究室で機械学習を学びました
「AI時代の政治とは何か?」というテーマにも関心を持たれており、その問題意識が作品全体に通底しているように感じました。

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2️⃣ 主人公のAIとの付き合い方が印象的

大学を卒業したばかりの女性・松岡まどかが主人公。
彼女の“恋人”は、なんと自作の生成AI。まるで仮想彼氏のように、
彼女の愚痴を聞き、励まし、プレゼントまで用意してくれます。

さらに、メルカリで値段交渉をしてくれるなど、AIの使い倒し方が斬新で驚かされました。
単なる「便利な道具」としてではなく、「信頼できるパートナー」としてAIと向き合う姿勢が、読んでいてとても心に残りました。

孤独なときも、判断に迷ったときも、AIの存在が彼女の支えになっていたのが印象的です。

3️⃣ 経営者の苦労が、ほんの少しだけ実感できる

まどかは、ある“だまし討ち”のようなきっかけで、起業をすることになります。
経験ゼロの新卒が、いきなりスタートアップの社長に――という展開も驚きですが、
物語を通じて「経営者というのは、こんなにも孤独で、厳しい決断を迫られる立場なのか」と思わされます。

信頼していた人に裏切られたり、ライバルに陥れられたり…。
そして、それでも前を向いて、自分の信じる未来を切り拓いていくまどかの姿には、勇気をもらいました。


最後に:AIとどう向き合うか、どう働くかを考えさせられる本

私たちは今、AIの黎明期に生きています。
「仕事を奪われるのでは?」といった不安の声もありますが、
この物語を読んで思ったのは、AIを“敵”と見るのではなく、“育てるべき相棒”として信頼する姿勢の大切さです。

そして、働き方も、経営も、人との付き合い方も――
すべてがトライアンドエラーの連続なのだと、改めて感じました。

未来はきっと、私たちの選び方次第で、もっと良くできる。
そのためにも、AIとの「上手な付き合い方」を、模索し続けたいと思わせてくれる一冊でした。

作家デビューのきっかけとなったハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作品『サーキット・スイッチャー』も面白いのでお勧めです!