平田 京子
あの美術館の誕生秘話
2023年5月25日(木)

こんにちは。
久々に最近読んだ本のご紹介を。

原田マハ著『美しき愚か者たちのタブロー』

ある男が日本初の本格的な西洋美術館を建てるまでのお話。
その男とは、美しき愚か者-その1-松方幸次郎 です。

彼が株式会社川崎造船所(現在の川崎重工業株式会社)の社長だった第一次世界大戦当時、
日本がまさに先進国になろうと必死だった時代に
「日本の若者たちが世界レベルの文化人となれるよう本物の西洋の芸術を見せてあげたい」
という強い信念を抱き、私財をなげうって(一時は自宅を抵当に出したり、なんてこともあったらしい)
一流の絵画を買い集め、守り抜き、無事美術館を設立するまでの長い長い物語です。

海外旅行すら難しかったような時代に、しかも2度の世界大戦の大混乱を潜り抜けたうえでの、
本当に奇跡としか言いようがない美術館設立の実現は、
松方だけでなく、数々の美しき愚か者たちの血のにじむような努力がなければ叶わなかった。

この小説は、史実に基づいたフィクションだそうですが、
その奇跡の連続と尽力した方々の情熱がまざまざと伝わってきました。

このブログのタイトルにした『ある美術館』とは東京、上野の国立西洋美術館のこと。
以前訪れた際には、入り口前のロダンの彫刻を何気なく見ていたものですが、
次に行くことがあれば、「これが、あの・・・」と感慨深い気持ちがこみ上げてきそうです。

2023年の現在、ロダンも、モネも、ゴッホも、私たち日本人にとっては良く見知った芸術ですが
そうなり得たのは100年以上前のたった一人の男の情熱があったからこそ。
彼が「美術館を作る!」なんて言いださなければ、もしかしたら日本にそんな文化は根付いておらず、
ヨーロッパやアメリカへ行かなければ見ることのできない遠い存在のままだったのかもしれない。
そう思うとほんとにありがたいことです。
先人たちの努力のもとに日本が豊かになれたということ、忘れてはいけませんね!